2020年7月2日木曜日

立ちはだかるTS-950SDX(TS-590無印の受信音を追求するの続き)

続きです。
自分的にはこれで良いと思う設定を見つけて、しばらくの間TS-590無印を楽しんでいました。そこで、自分の中の理想の一つである、TS-950SDXの455KHzのみの6kフィルタを通過させた音との比較をしてみたいという欲望がふつふつと湧いてきました。

自分の周りでは、最近になってTS-950SDXブームが来ており、複数台所有の猛者が2人もいます。私自身は2011年の地震の少し前に手放して、一旦は過去の無線機になったものの、TS-590無印を入手してから経験する初めての聴きづらさに、590を経験した後に950SDXで聴いてみたらどんな感想を持つだろうという興味を持っていました。


(TS-950SDXの上にTS-590無印、さらにその上にちらっと写っているのは、590に接続したトリオSP-70)
























ふとした偶然が重なり、昨日、我が家に再びTS-950SDXが来ました。当然ながら以前手放した個体とは別のものですが、細かいことを言わなければ状態も悪くなく、私が「これが950SDXだ」と思っていた性能は期待できるでしょう。
しかし、大きい…重い…

2台にアンテナをつないで、早速スイッチを入れます。ちょうど21でEsが出ており、国内が良く聴こえます。両方で同じ局にゼロインしつつ、ぱっぱっとアンテナを切り換えつつ、聴き比べ開始です。
950SDXのほうはやはり古さが目立ちます。チューニングの際にVFOダイヤルを回したときの受信周波数の変化する音の体感的な遅れが最初に気になります。この、体感的な遅れは、590無印と比べてということではなく、950SDXを10年少し前に使っていた時期にもそう思った記憶があります。

音に関してですが、自分好みに追い込んだ590が結構健闘するのではと思っていたら、比べてしまうと、やはり950の「8.8MHzはスルーで455KHzのみを通過させた6kで聴いたSSB」は聴きやすいです。人の声が自然と耳に入ってきます。
ノイズや妨害信号がある場合は、フィルタを狭めるなりなんなりして、そのときはじめて眉間にしわを寄せて集中することになります。

一方のTS-590無印ですが、ここまでがんばって設定したグラフィックイコライジングの成果で、AF的な音色を自分好みにしても、IFから通過してくる幅の広さの信号の音声成分がすべて一旦耳に入り、耳の中で人の声を分離するプロセスがあるように感じています。
なので、ある程度耳障りの良いイコライジングカーブを作ってあげても、(950SDXに比べて)音量をあげてその中から(眉間にしわを寄せて)人の声を解釈する作業がもうひと手間必要なんですね。
もちろん、これはフィルタの幅の選択やイコライジングカーブの設定で緩和できますが、950SDXの6kそのままは実現できません。950SDXを到達点という視点でみると、どうしてもこうなってしまいます。でも仕方ないです。アナログの無線機でこういう世界に入って、これが普通だと思っていたわけですから。

90年代の高級機向け技術でIFをアナログフィルタで構成するのと、2010年のIFDSP普及機との比較ですからフェアじゃないとは思うのですが、やはりアナログのセラミックフィルタやクリスタルフィルタを経由する信号は、帯域間際の信号の切れ方などはファジーなところがありますが、自然な音で聴こえます。
この自然な音というのが重要で、イコライジングカーブの設定で音声を加工しなくても、そのままで聴きやすい音で聴こえるのです。

ただし、設定を煮詰めたTS-590無印も、950SDXに比べて大きく劣るかというと、確かに聴感では完全には追いつけないものの、IFDSPフィルタのばっさりと切れるところは素晴らしいですし、デジタル処理によるノイズブランカやノイズリダクションやノッチは適正な深さに設定すればよく効きますし、ボタン一発で消えるビートキャンセルやオートノッチは使ったらこれが無い状態に戻るのには抵抗があります。ノイズや妨害信号がある場合は、590無印のほうがはるかに機能的です。当時としてはよく効くNBや比較的使いやすいマニュアルのノッチがついている950SDXですが、これにはかないません。
アナログ慣れした私の耳にはTS-950SDXの音はよく馴染み、聴き疲れしないところは強みです。しかし、自分好みの音に詰めたTS-590無印もけっこう良い勝負になったのではと思っています。というか、950が来たからもう590は売ってしまおうかと短絡的な考えにならないところが、590の粘り腰(表現が古いw)ってところでしょうか。

2台の比較の結論としては、HFをダイヤルをくるくる回してながら聴きしたいときにはTS-950SDXが最適です。近所の局とラグチューも950です。6KHzの幅の中に耳で解析できないような混信が発生するまでは、950SDXを使いたくなります。
しかし、帯域内に混信が発生した後のシチュエーションとしては、最初に950SDXを2つのIFともに2.7kHzのフィルタに設定してスロープチューンを使ってということをやるわけですが、スロープチューンにしても、アナログフィルタの組み合わせで上下を切るよりもIFDSPのほうがきれいに切れるので、ここからは590のほうが性能が上で、更に混信の中のQSO継続ということであれば590が勝ります。
そういうシチュエーションで使い分けをするかは別として、そうするために持っておいても良いのではと思うところです。50MHzの100Wはこれで免許されてますし。

机の上がいっぱいになりましたが、しばらくこのまま併用していこうと思います。
というか、比較が終わったら950SDXは売却しようと思っていたのですが、こっちも手元に置いておきたいと思ってしまいます。いけませんねえ。

(後注1)「TS-590無印を入手してから経験する初めての聴きづらさ」を後から読んで、TS-2000SXで50MHzSSBを聴いているときに、ノイズと受信信号の分離が悪く感じて、どうも信号がノイズに埋もれる感じがする、なるべく帯域外のノイズを減らないかとプリセレクタを入れてみたりしたことを思い出しました。これって、目的信号が弱かったとか、TS-2000SXの50MHzの感度が悪かったんじゃなくて、IFDSPフィルタはいちばん広いのが良いと思い込んだことや、受信DSPイコライザの設定を詰めなかったので、当初の590無印同様に聴感が悪かったんだと思います。もうちょっと突き詰めてというか、そういう気付きがあれば良かったと思います。
でも、TS-2000の場合は、590無印で最初にすぐに感じた、「もうどうにもならないほど喋ってる人の声がノイズの前に出て来ない」というほどの違和感は感じなかったんですけどね。

(後注2)「TS-950SDXの455KHzのみの6kフィルタを通過させた音」が何度も出てきますが、これ、6kHz幅を聴いているものの、Hi-Fi的な聴感ではないです。セラミックフィルタやクリスタルフィルタを通過した自然な音がしています。むしろ、590の受信DSPイコライジングで加工した音(しかも私の場合はIFDSPフィルタは4k弱の幅で聴いてます)のほうが低音域と高音域が出ていて、ドンシャリ感があります。そのドンシャリ的な音を耳に全部入れた後、人の声を浮き出させるといった脳みその解析プロセスがあるので疲れちゃう…となります。

(後注3)2021年2月24日、青字部分を訂正、加筆しました。

2020年7月1日水曜日

TS-590無印の受信音を追求する

と、GタイプではないTS-590S(以下、TS-590無印)について、聴きやすい設定は無いかと試行錯誤、というかより良い聴き心地を目指していた(おおげさ)ところです。

TS-590無印の受信系の音質に関する主な設定は、
(1)DSPIFフィルタによる、IF通過帯域のスロープチューン的な可変
(2)受信DSPフィルタによる、AF的な音質の味付けの調整
の2つがあります。

こんな話は、2012年のTS-590無印が市場に出た当初にみなさんがけっこうやっていると思います。手が届く価格帯の中古の無線機を後年になってからいじるような私の場合、その当時の論に触れる機会が既になく、webに残っている識者の方々の記事を読むくらいがせいぜいなところが現状です。
で、しかも、私がここにこのようなことを書いても、これが世間の目に触れることもないわけですがw

(1)のDSPIFフィルタの可変については、スロープチューン的なツマミを可変して上下の帯域を絞ることができます。これは音質にも直結して、絞ると鼻つまみ的な音になります。広げると広くなったような音になりますが、TS-590の場合はいっぱいに広げても聴きやすくなるかというとそうでもないです。ただし、IFを通過する周波数を上下からばっさりと切れるので、帯域内に混信がある場合にはこれを切る手段としてはとても有効です。これは素晴らしいと思います。さすがIFDSPというやつです。
私の場合、TS-590がA/Bと切り換えて持てる二つの設定値を、A:100Hz-4000Hz、B:100Hz-2800Hz(つまり、通過帯域2.7KHzでダウンコンバージョンを使いたいとき ※ )としています。
Aの場合はながら聴き、Bの場合は混信があるときなど、少し真面目に聴きたいときに使います。

(※)21MHz以下のクラシックなアマチュアバンドの場合で2.7KHz以内を通過させる場合にはダウンコンバージョン(11MHz)の回路を通り、それよりも広い設定の場合にはアップコンバージョン(73MHz、10MHz)を経てということで、通る中間周波数によって(メリットデメリットを含んだうえで普及機にどれくらいコストをかけられるかということも踏まえた上で)相当(それにふさわしいレベル)の性能が発揮できるというシロモノです。
このあたりは TS-590 徹底解説集 を読んでみて下さい。特に、PDFの7ページにある、「1受信 1.1コンバージョン方式」を読むと、なるほどねということが書いてあります。

(2)については、受信した信号をオーディオ的に加工して聴きやすくするものです。
TS-590無印の場合は、「切」「ハイブースト1/2、フォルマント・パス、バス・ブースト1/2、フラットがプリセットされていて、他にPCをUSBで接続した上で設定できる「ユーザ設定」を使うことができます。
TS-590無印の購入当初「受信した人の声が前に出てこない、聴きにくい」という印象を持ち、未だにこれを払しょくできていません。購入後は「切」の状態で長く使っていて、これで人の声が聴きにくいと騒いていたのですが、フォルマント・パスやハイブースト2(Hb2)にすることにより改善しました。無線機を通じてよく聞く声の周波数帯域は、これらの設定値で増幅(または減衰しない)ことで強調できているようです。
少し前に気が向いて、ファームウエアをアップデートした際に、ARCP-590(ケンウッドが未だに提供し続けてくれているありがたいPCコントロールソフト、これはGタイプ用ではなく、「無印」用です。)で、プリセットのイコライジングのカーブを見てみました。

まず、良かったハイブースト2(Hb2)です。












フォルマント・パスはこんな感じ












フラットはこんな感じ












「切」、オフはこんな感じ。












驚いたのは、切っている状態と、「フラット」は違うということです。聴感上確かに違うように感じていたのですが、メニューの一番最初と後ろで、スイッチ一回押しでパタパタと比較できない位置にプリセットされていたのでこんなに差があるのに気づきませんでした。
道理で、人の音声帯域が含まれる(と思われる)高い周波数を減衰させているんですから、「切」では聴きにくいはずです。

私のユーザ設定はこれ。ハイブースト2(Hb2)を参考に、少しだけ弄った状態です。上の3つのバンドはこの画像では絞っていますが、その後設定を見直しをして、一番上まで上げてあります。












このユーザ設定と、(1)の「IFDSPをいっぱいに広げて使わないこと」の併用で、ずいぶんと聴感は改善しました。
 
もう一つ、書き忘れていたのですが、590本体のスピーカではなく、
(3)外部スピーカ(トリオSP-70)で聴くこと
でさらに改善しました。このTS-600や700用の古いスピーカですが、TS-590無印(Gタイプでも良いと聞きました)と相性が良く、(1)(2)に加え、これで聴くと了解度がかなり向上します。(1)(2)(3)の合わせ技を駆使すれば、TS-950SDXに迫れるかもと言っても言い過ぎではないでしょう。
 
これらのおかげで、(以上赤字部分、2021年2月24日追記)スイッチを入れて、ゼロインして、いきなり眉間にしわを寄せて信号に集中することになって、すぐに疲れるという状況からは脱せたような気がしています。
これなら、TS-950SDXの455KHzだけ通す6kHz幅の受信音とそん色ないところまで行けるかも?と思って、本日テストをしてみたところなのであります。(続きます)