2024年7月3日水曜日

令和6年に再び触るFT-817NDについて

FT-817考 に「なんとも締まりのない話になりましたが、マルチモード、マルチバンドで電池で出られる存在というのは貴重です。そのうち(再び)買っておくべきでしょうか。」と書いて締めていましたが、何年ぶりでしょうか、我が家にFT-817ND(002KN453:新スプ適合)がやってきました。


 

Action☆HandyシリーズやFT-690mk2を触っていると、やはり現代的な性能が欲しくなってきます。連続的に可変できるVFO、HFから430まで自在に移ることができるバンド・モードが実装されているのは魅力的です。

817は初代の発売が2000年、途中で「ND」が付いてニッケル水素充電池が標準装備、さらに新スプリアス規制に適合し、後継のFT-818NDに道を譲り、2023年でしたっけ、ついに818も販売が終了しています。そのせいか、今は中古の817/818の値段がすごいことになっています。私が再び入手した個体は、外観の見栄えや箱入りやフルオリジナルに拘らなかったので、それでも比較的安価で済みました。

対抗馬として考えられたのはIC-705です。大型ディスプレイにHF-430までオールバンド・オールモードで、IFもデジタル化されていて、送信音も吊るしのままで聴きやすい良い音が出ます。ですが、まだそこまでの機種を触るには若干の抵抗があるので、レガシーな817をもう一度触ってみることにしました。

スイッチを入れて関心したのはSSBの受信音が聴きやすいことです。初期のPLLの無線機、FT-690mk2やTR-9300もそうでしたが、それらの世代の無線機は、アナログIFなのにもかかわらず、目的信号のノイズからの浮き上がり具合がいまひとつで、それ以前の完全アナログ機に比べると聴きづらく感じていました。いや、アナログ機でもTR-1300やIC-502は聴きやすいというほどの無線機ではなかったですが、それらに比べても一段劣ると感じていました。

【7/5追記】初期のPLL機でもTR-851のSSBは悪くないです。大昔、FT-100Dと比較してみて、FT-100Dのなんとも言えない聴きにくさに比べて、曇りが取れたような音に感じました。TR-851Dは今も愛用中です。

しかし、FT-817はそろそろPLLの処理が上手になってきた頃だったからでしょうか、デジタルPLL・アナログIF・DSP処理はやってもせいぜいAFくらいのFT-897やFT-920あたりと同様に、混雑をかきわけて使うといった極限的な状況ではなく、普通のQSOをするには十分な聴きやすさがあります。

※デジタルIFのTS-590などの評価については このあたり をごらんいただければ

FT-817には、アサップシステムのダイヤル電動ファンや、海外製品のフレームラックなどのサードパーティ製品がまだ売られていて、好みで買いそろえることができます。

  • アサップシステムの電動ファンですが、元々付いているNidecの低消費電力のファンはうるさいので、私はOMEGA TYPHOONの究極静音タイプに交換しています。また、ファンを回すシチュエーションを考えると、電池駆動のときには回さないでしょうから、この電動ファンのユニットについているスイッチはファンを回すだけのスイッチということにして、このユニット経由の817への電源供給は常時行うように配線の変更をしています。
  • なんでこんなことを言っているかというと、アサップシステムのこの電動ファンを付けるには、内蔵電池ボックスまたはニッケル水素電池を取り去ることになるので、817本体の外側から電源の供給を行うことになります。普段の想定は、「『安定化電源』→アサップシステムの電動ファンのユニット→817背面の電源端子」です。出先で運用する場合は、『安定化電源』が『シガーライター』に代わるか、または『外部に用意したエネループ10本の電池ボックス』ということになります。例えばエネループから供給した際に、オリジナルの配線だと電動ファンが必ず回ってしまうので、そうならないように外部から817に至るラインは直結、電動ファンはスイッチで冷やしたいときだけ回す、というように配線変更したわけです。
  • 【7/4追記】実はこのアサップのファンなんですが、少しTipsがあります。電池蓋の代わりにこれを取り付けるんですけど、寸法に余裕がありすぎてガタが出るんです。具体的に言うと、これを取り付けた状態でダイヤルを回そうとすると、ガタガタと揺れて快適に操作できません。そこで、薄いゴム板を挟みます。ゴム板ですが、適当にホームセンターで売っているものでいいです。21mm(1mmを2mmに訂正)程度の厚みがあって、挟むことによりガタを吸収できれば良いです。厚すぎると蓋が閉まらなくなるので注意ですね。で、ゴム板を程よい大きさに切って、ラッチの部分に挟まるようにハサミで切れ目を入れます。
  • 【7/4追記】そして、ラッチに切れ目を差し込んで、閉じると。そうすると、ガタがなくなります。

純正のTCXOユニットやオプションのフィルタは既に販売終了していて、オプションのCWフィルタは法外な値段がついてたりします。TCXOについては第三国での安価なものが出回っているので、それに興味はあるものの、周波数がズレたら合わせなおせば良いと考えてしまうので、今すぐの導入には消極的です。また、フィルタについてはSSB用に限ればまだINRADのメカニカルフィルタが入手可能です。まずはとりあえず手持ちのCFJ455K13を標準のCFJ455K14と比較してみましたが、受信では少し広くなったような気がするものの、送信では差がほとんどわからないといったところです。K13って一時期IFが455kHzのHF機でSSBの送信音を良くするために交換するのがTipsとしてありましたけど、それほどでもないですね。それとも817だから差があまりないと感じるのでしょうか。 



SSBについては、マイクをMC-90にするだけでそれなりの音が出ます。フィルタをINRADの2.9kに交換すればもっと良くなるでしょうけど、かつて一度やってますし、今はもういいかなと。

問題はAMでした。前回触ったときにはAMでの送信には興味がなかったので知らなかったのですが、これがなかなかの曲者です。F長押しメニューのAMマイクゲインはデフォルトでは50という数値に設定されています。また、AMのキャリアレベルについてはABC起動メニュー#69でうちの個体は224と設定されていました。AMというか低電力変調の無線機の場合、キャリアをSSB時の出力の1/4程度に抑えて、変調は気持ち深めというのが原則ですが、まずはそのまま送信してみると、モゴモゴといった浅い変調で、しかも歪んでいます。

そうか、一時期の八重洲の無線機ってAMはダメって話だったっけといった朧気な記憶をもとに、webで調べ始めると、

  1. ABC起動メニューの#69のAMキャリアレベルを190程度まで下げてみる
  2. その上でマイクゲインを下げてみて歪まないポイントを探す

といったことで対策していることがわかります。

キャリアレベルを下げるのは原則どおりですから即マネをしてみます。あと、歪っぽい音はマイクゲイン過多というのも納得できるので、これもマネします。で、送信をしてみると、今度は「わんつー、わんつー」の二回目の「わんつ」あたりで通過型パワー計の針が落ち込みます。ALCが効いたようです。このALC、自然と全体のマイクアンプ段からの出力が抑えられるのではなくて、しきい値を超えた大入力をポイントで抑えているようで、「わんつー」が「 ん っー」になってしまって台無しです。それではということで、

  • ABC起動メニュー#65の50MHzのALCの戻りのレベル調整を変更してみる

ことを試してみたものの、数値を弄っても「 ん っー」は改善されません。ALCの戻りを弄るのも、キャリアレベルを下げる方法はやめることにします。もう一つの対策としてwebで諸氏が挙げられていた

  • ABC起動メニュー#69のAMキャリアレベルを240程度まで上げてみる

ことをやってみます。キャリアレベルを下げることについては、webの諸氏はいわゆるマイナス変調対策と説明されていて、そのとおりだと私も思うのですが、うちの個体はキャリアレベルを下げることによって、「わんつー」と送信したはずの信号なのにALCが盛大に効いて「 ん っー」と出力がカットされてしまうことが大問題なので、多少カットされてもキャリアが減らないように、上げてみるという方向です。マイナス変調上等です。

そうしてみると、ちょっと喋る限りはマイナス変調になってしまうのは仕方ないとして、「わんつー」でALCが効いても「 ん っー」にはならず、それほど出力も落ち込みません。ちょっとシメシメです。

ここまでの総括ではこんな感じです。

  1. AMキャリアレベルが標準の224
  2. AMマイクゲインは標準の50 
  3. その結果はモゴモゴ歪み気味のあまり好きじゃない音【ダメ】
  1. AMキャリアレベル190
  2. AMマイクゲインを20
  3. その結果、マイナス変調は解消したが、大入力時に出力が落ち込み「 ん っー」
  4. ならばALCの戻りを減らしてみても変化なし 【ダメ】
  1. AMキャリアレベルを240
  2. AMマイクゲインを20
  3. その結果、マイナス変調だけど大入力時にも出力の落ち込みはなし【行けるか?】

【行けるか?】というところで、AMマイクゲインを歪まない最大値を見つけて妥協しようかと思ったのですが、「マイクアンプ段からの入力をコンスタントに増やして、常にALCが効いているようにしたら出力が落ち込むということはなくなるのでは?」と思いつき、マイクコンプレッサを使ってみようと思い立ちました。

少し前にジャンクで「動くかも?」と買って、ちょっと電源を入れてみたら案の定動かなくてそのまま死蔵していたカツミのマイクコンプレッサを持ち出して弄り始めます。


 

電池を入れて電源を入れてみると動作がおかしかったのですが、そのうちにその理由はメインのスイッチの接触不良であることが判明し、スイッチの交換によりまずは動作できました。この個体はトリオ4ピン仕様という触れ込みだったので、TR-2300を持ち出して繋いでみます。MC-20→カツミMC-702→TR-2300の送信信号をTM-833でモニタしてみるとこれが見事にサイテーな音です。コンプレッサは生きています。4ピンマイクの出入りで動くことが確認できたので、ケンウッド8ピンマイク仕様に変更して、(八重洲8ピンモジュラー変換経由で)817に繋いで試してみました。


 

まずはSSBでテストしてみたところ、少し圧縮気味の音にはなりますが、TR-2300のFMで試したときに比べるとそれほど悪くないです。リニアを繋いだりパワーを出せるときに使うなら軽くにしろということなんでしょうけれど、使い方次第でアリかなと思います。

次に問題のAMです。まずはキャリア減らし方向のテストですが、見事にダメでした。常時入力過多傾向でALCが効きっぱなしというか送信信号が抑えられっぱなしになります。話になりません。次にキャリアを増やす方向でのテストですが、こちらは程よく変調が深いまま、隣のTS-590からは途切れずに私の声が聴こえます。いけるかも?と期待してしまいます。ただ、まだ客観的に信号を聴いてもらったわけではないので、この前者と後者、

  1. AMキャリアは増やす設定(マイナス変調上等)
  2. AMマイクゲインは20
  3. マイクコンプレッサON

と、

  1. AMキャリアは増やす設定(同 上等)
  2. AMマイクゲインは標準の50の標準状態
  3. マイクコンプレッサOFF

との差がどの程度あるのかというところを比較してみたいと思っています。 ちらっと自分の声を隣のTS-590で聴いた感じだと、マイクゲインを下げてコンプレッサを入れたほうが「歪がひどくならずに音の通りが良い」感じはします。プラシーボかもしれませんが。

【7/4追記】隣に置いたTS-590で聴いただけの比較ですが、端的にいうと、マイクゲインを上げたときと、スピーチプロセッサ(この場合はスピーチコンプレッサですね)を入れたときの違いがあるだけです。どちらかが良いという感じでもないです。なので、平均的な圧縮音声を期待するならコンプレッサ、やさしくしゃべってピークを出さないならマイクゲインを上げる、ということになるでしょう。どのみち817のAM送信音はどうあがいても 期待してはいけない というのが結論になりそうなので、このあたりはお好きに、コンプレッサをいれて平均電力をあげるということをやってみたい(ただし音質の改善があるわけではない)なら使ってみたらどうでしょう、という感じです。

私ですか?せっかく直ったカツミのスピーチコンプレッサを弄るのが面白いので、音質が悪くならない程度に軽く使ってみようかと思っています。 これTS-600で使ってみたいなと思いつつ、同時に600は送信音を期待しちゃいけない無線機だったと思いなおし…


 

しかし、こんな感じで試行錯誤していますけど、IC-705ならつるしのままで、良い・聴きやすい音が出るんだろうなと思います。

今回、817については悪あがきをして次善の設定を見つけようとしていますが、あまり大きな期待はせずに、小さな無線機を性能の範囲で楽しむという方向で考えるべきなんでしょうね。実際、バンド切替スイッチを押したときに、中からリレーの小さなパチパチという音がする様子はかわいらしいですし。